Booklog - Slack ゆとりの法則

Tom DeMarco, 伊豆原弓

はじめに。企業のスピードが速くなったことで高効率低コスト短時間で仕事ができるようになった。反面、猛スピードでの方向転換が無理なように、変化する柔軟性が失われた。 第Ⅰ部 ゆとり。変化を実現するにはゆとりが必要だ。効率とゆとりは相反するものであり、極限まで効率化されていると変化や再生ができなくなる。 第 1 章 斧を持った男。欧米の効率化の波は短期的には効果があったが長期的には害になりうる。 本書の目的の 1 つはレイオフの対象となりやすい変化の中枢たる中間管理職の重要性を検証すること。 ピープルウエアでも変化のセンターを中間管理職のチームに置くことを書いていた。 わたし自身は所属してきた組織が大きくないのも有り、そのような変化を起こせる中間管理職を知らない。新鮮みを感じながら読めそうな気がしてる。

2025-10-17, read count: 1, page: 1 ~ 16, pages read: 16

2 現代の仕事は労働者をノードとした巨大なネットワークであり、各労働者が忙しいと仕事が流れてきてもすぐに取りかかれない。最大限の効率は早さを犠牲にする。 3 効率化では人材を代替可能と考えるが、実際は切り替えのコスト(コンテキストスイッチ・チームの結束の喪失)で高くつく。忙しさだけが増し全体的な能力は低下する。 4 常に急いでいると、早く仕事を終えて手が空いた状態が遊びと見られる。そのためレイオフを逃れるために適度に遅く仕事をして「忙しい」状況を演出するため、全体的な速度は遅くなる。 どれも現実味があるな。組織の処理能力を超えた仕事量だと 2 と 3 が容易に起こる。

2025-10-18, read count: 1, page: 17 ~ 34, pages read: 18

5 どんな管理者の下にも1, 2 人は好奇心・勇気・豪胆・成長意欲を持ち備えた人材がいる。 そのような人材とその同僚のためにはなるべく管理せず自由にやらせるといった管理のゆとりが必要。 6 ここまで見てきたように、組織を柔軟に変化に対応できるようにする、人材を離れにくくする、投資の効果を高めるにはゆとりが必要。 ゆとりがないと投資効果が薄れるというのは結構分かるかもな。 一部のスタートアップではクラウドのコストの無駄と投資の判別もつかないまま突っ走っててんなアホなと思ったことがある。 PMF して金があればそういう遅延評価もあるかも知れんが、すぐにわかることを先延ばしにしてまで得られる速度は案外バランスしないんじゃないかな。 振り返る余裕もないようなら行動の正当性も評価できんしな。

2025-10-19, read count: 1, page: 35 ~ 52, pages read: 18

第Ⅱ部 本当に速く仕事をするには。相互依存する時間とコストの両方を削減するプレッシャーのようなストレスが、個人だけでなく組織にどのような悪影響をもたらすか。 またゆとりがどのように解決手段となるのか。 7 プレッシャーで考えは速くならないので、短期的には超過勤務で仕事の所要時間が減るが、それ以上は減るどころか疲弊して逆に生産性を落としたり離職するリスクがある。 8 強気のスケジュールのように間違ったできない約束を結ぶのは管理者の奇妙な信仰。またその失敗の原因が労働者のせいにされがちだが、責任は管理者にある。 中長期的な超過勤務は燃え尽き症候群にもつながるしホント良くないよな。このアプローチも根底には人を代替可能と考えてる節がある。

2025-10-20, read count: 1, page: 53 ~ 69, pages read: 17

9 時間外労働は適切なタイミングの短期集中なら効果があるが、恒常的だと疲労の蓄積・燃え尽きと離職・時間を無駄遣いするクセが正規の時間内労働の生産性を著しく下げる。 これは管理者も例外ではなく、やらなくてよい仕事に時間をかけ過ぎているだけ。 10 組織が時間外労働に報酬を払わないことで見かけ上は生産性が僅かにでも上がって見えるが、中長期的には前述の理由から生産性を落とす。 11 テクノロジーによって格上の仕事だと対面を保たれた頭脳労働を必要としない事務作業などで高給取りの管理者や開発者の時間が削られる。 アシスタントを置いた方が効率的だが組織上はオーバーヘッドと捉えられ「効率化」される。 時間外労働も事務作業も頷ける内容だ。ただそういう程度の低い組織に人が寄り付かなくならない限り組織が是正されることはなかろうなと、これまでの経験で思う。 そしてそうなるには今の時代でも大いに時間がかかるので、危うく感じたら自ら是正するかさっさと離れるか。

2025-10-21, read count: 1, page: 70 ~ 90, pages read: 21

12 間違った管理の法則、①うまくいかないことがあったら、もっとやれ ②自分自身のユーティリティ・プレーヤーになれ 管理者は自分の才能を活かし成功に焦点を合わせるが、能力がない管理者は原則にすがり、うまくいかないことに力を注ぎ続けてしまう。 管理は本質的に難しく挑戦的である。そこからの逃避であったり、部下の仕事を増やすまいと自分で低レベルの仕事に手を付けるのは、管理の放棄である。 13 口に出して言えない雰囲気・何よりも権力が勝る・服従しないものは罵倒される... 恐怖の文化がはびこる組織は失敗する。 その悪影響の一面に過剰な人員配置がある。概念設計の段階で何十人も配置されても仕事がないので、設計前から仕事を分けてあとは想像の通りの惨劇となる。 恐怖の文化はデッドラインにもあったやつだ。こういう文化は人が変わらない限り続くので近寄らないに限るが、自分がそうならないよう注意も必要。

2025-10-22, read count: 1, page: 91 ~ 103, pages read: 13

14 訴訟は、恐怖の文化を持つ組織がクビにできない上層部の失敗に直面したとき、責任を外部になすりつけるために起こる。膨大な金と時間がかかり当事者全員が敗者となる。 健全な企業であればある程度の失敗にはチャンスが与えられる。訴訟になる契約の多くはひどいものであり、公正を欠いたゆとりのないものである。 15 ISO のような標準化された規格は役に立つが、それはインターフェイス規格であるからだ。かたや知識労働者のプロセスは標準化に適さない。 自動化に取り残された仕事の多くは難しいので、標準プロセスでは柔軟性を欠き、その多くの中身は空っぽ。 管理者が失敗する標準化に飛びつくのは、恐怖の文化により失敗を恐れるためであり、管理者がプロセスを所有し委譲されるべき権限が搾取される。 恐怖による支配の問題は深刻やな。プロセスについてはプラクティスが役に立つときもあるが、頼り過ぎるのが良くないということだと理解した。

2025-10-23, read count: 1, page: 104 ~ 121, pages read: 18

16 欠陥を少なくする品質向上プログラムは、本物の品質向上を困難にする。本当の品質とは欠陥の少なさではなくユーザの概念を覆し変えてしまうもの。 品質を高めるには時間を必要とし、また数量と反比例の関係にある。高品質なものを大量に作ることはできない。 17 効率と効果はフィッシャーの基本定理にあるように両立が難しい。流動的な市場経済ではリスクをとり効果を追求しないと成功しないが、目標管理のお陰で効率を選んでしまう。 18 目標管理はある状態が変わらないことを前提としその上で増分を検討する。現代では変わらない状態はなく、状態を変えないなら破滅の道へ進む。 目標を達成するために失われる顧客満足度がある。これをディスファンクション(機能障害)と呼ぶ。 無理やり作られた KPI ではないが昔やった MBO もわたしは合わなかった。仕事の優先順位が常に変わり半期や通期の目標が陳腐化する。結局いまのところは個人的な長期的展望のみが拠り所になってる。

2025-10-24, read count: 1, page: 122 ~ 142, pages read: 21

第Ⅲ部 変化と成長 成長は変化の結果である。組織の変化と成長を実現するには、変化の障壁を取り除き、ビジョン、リーダーシップ、タイミングが必要で、それらはゆとりがあって初めて実現できる。 19 ビジョンは自分たちが何者であり何者でないか、変わるもの変わらないものを示す。成功するビジョンは現在と未来に関する真実を含む必要がある。 ビジョンがあって初めて先を見越した行動、つまり変化が起こせる。 20 リーダーシップは、ビジョンで方向性を示し、長期的な利益を高めるために短期的な痛みを受け入れることを認め、あとは人を巻き込み先に進む。本物のそれは組織図の権力のそのとにとも巻き込む。 21 ディルバートのようなお粗末な管理者に従うお粗末な管理をさせておく人々にもフォロワーシップの責任がある。 そのような問題に気づくのは変化を起こせる人であり、これが組織の最下層であれ変化のリーダーシップを取れる所以である。 このリーダーシップはピープルウエアでも触れられていたものでワインバーグ氏と同じ考え方。わたしもそうあるべきと考えてる。

2025-10-25, read count: 1, page: 143 ~ 157, pages read: 15

22 変化には安全な現状から離れる恐怖・失敗するかも知れない恐怖が伴う。その種類の恐怖は学習を促進することもあり、変化を妨げるものではない。 変化を妨げるのは、変化を始めた者の苦しみに対する嘲笑・批判・軽視といった不遜な態度であり、組織から一層する必要がある。 23 信頼を得る方法としてよく言われる「信頼に足る行動をする」は現実的ではない。実際は信頼に足る行動をするよりも前に信頼を与え、成功のためにフォローする必要がある。つまり失敗するリスクを取る必要がある。 24 変化を導入するタイミングは落ち目ではなく上げ潮のときが最適。変化の抵抗勢力に挑むにはそれだけ有利な条件が必要。 25 組織の変化を担うのは中間管理職だが、コストカットに熱心な組織では削除の対象にもなりやすい。 中間管理職に変化を起こすだけのゆとり・失敗を許容する文化が与えられて初めて変化が起こる。 中間管理職のくだりはピープルウエアでも触れられてたが、そんなにピンときてない。 多くの企業では変化の渇望・実行力・権力すべてを持つって役職がここしかないってことかな?

2025-10-26, read count: 1, page: 158 ~ 174, pages read: 17

26 ヒトは学習し続ける生き物だが、本当に重要な何かを学び直す機会では、支援する環境がないと受け入れるのが難しく、学習の機会を失う。 その支援とは指導者・教材・共同学習者である。管理者の場合はこれらを得るのが難しく、だからこそ中間管理者同士のコミュニケーションが発生する空白地帯が重要になる。 わたしは友人と輪読する以外は独学だけで、かつこのような管理者同士のコミュニケーションは知らないのもあり、なんとも。 要はコミュニティで高め合うって文脈と思う。組織設計としてはそうすべきだが、個人がそこに期待しては先に進まないという認識。

2025-10-27, read count: 1, page: 175 ~ 183, pages read: 9

27 空白地帯にとって競争は強調を阻害する危険性がある。このような競争はゆとりのない権威主義的な管理で起こる。 ゆとりのない権威主義的な管理では時間をかけた訓練が行えない。変化には競争ではなく協調、時間かけられることが必要。 28 変化の管理は楽観的にみられるが難しい。変化の中では通常の権力は機能しない。変化を始めるまでに積み上げた信頼の貯金を前払いする必要がある。 従来のトップダウンの管理は変化の中でなくても知的組織には機能しない。 信頼の貯金てやつ、個人的に信頼ポイントと呼んでたやつだ。 信頼ポイントがないと新しい何かを提案し自分で勝手に始めるのも難しいから、新しい組織に入ったらまず始めはポイント稼ぎに従事するのが肝要。

2025-10-28, read count: 1, page: 184 ~ 194, pages read: 11

第Ⅳ部 リスクとリスク管理。リスクを取らなければ成功しない。リスク管理は、全体として成功するまでに起こる多数の小さな失敗を管理する。リスク管理に加え、リスクが実現したときに備えたゆとりも必要。 29 リスク管理はあくまで確率的な方法でしかない。それでもどの程度の不確定性があるか評価するには使える。何にでも「できる」と考える管理はリスク管理と逆の思考であり両立できない。これは個人に限った話で、組織では複数人で両立できる。 30 全体的なリスクは直接管理できないがそれは部分的なリスクの積み重ねであるため、それらは管理することができる。 管理にはリスクの抑制と軽減があり、抑制は発生するかわからないリスクのために余分に確保しておく柔軟性、軽減はリスクが発生した場合に備えた計画・準備を意味する。 これまで、バッファをさば取りした挙げ句集めたバッファも何故か減らしてしまう、当事者が報告したリスクを捨ててしまう、というプロジェクトは何度かあった。リスクを過小評価してたのと同時に締め上げればもっと速くできると思われてたんやろな。

2025-10-29, read count: 1, page: 195 ~ 211, pages read: 17

31 持ちうる最大の速度で仕事することは危険速度で走るのと同じで、事故をすればただでは済まない。余裕を持った安全速度で走るべきだ。 このリスク軽減措置は何もリスクが顕現しなかった危険速度の場合よりも少しコストがかかる。 そのため成功のことしか考えていない多くの組織にはリスク管理がただの邪魔者に見える。 32 変化のない時代の生産思考的な世界ではリスクを管理する必要がなかった。 現代の変化の時代ではリスク回避は機会の損失であり、新しい市場・新しい技術といった大きなリスクを取らなければ成功しない。 小さなリスクしか取っていないなら今すぐそれをやめて大きなリスクを取ることにコストを割くべき。 33 仕立て屋と王女の逸話。目先の目標に気を取られ思考の転換ができるゆとりがないと、新たな更に魅力的なチャンスを手にできない、てことかな? これで本書は終わり。本書も面白かった。ピープルウエアとテーマは重なるが、そのキーとして終始ゆとりに焦点を当てていたので重要さがすり込まれた感じがする。

2025-10-30, read count: 1, page: 212 ~ 230, pages read: 19