Booklog - 習慣と脳の科学

自分自身習慣化すると苦も無く継続できるのでその仕組みに興味があった。 本編を読む前に監訳者解説とも目次を読んだ。 当初は一般書にあるようなファストアンドスロー的な単純な二分化された説明でなく、習慣の観点から人間の行動を司る複雑な仕組みを、従来の研究の再現性が低いことも踏まえて丹念に繙くらしい。 また原著者の紹介。実績があるだけでなくブラックボックス的な研究に透明性をもたらすオープンサイエンスの旗手でもあるらしい。 専門用語が多くその点ピンとこないが、解説はかなり読みやすい印象を得た。

2025-04-06, read count: 1, page: i ~ vii, 249 ~ 259

第Ⅰ部 習慣の機械 なぜ人は習慣から抜け出せないのか 第 1 章 習慣とはなにか? 習慣が持つ強固な持続性という特性が、いかに人間の行動を変えるのを難しくし、また生きていく上で必要なものか。 技能は一度習得すれば自動化される点で習慣と似ている。 肉体の習慣もあれば心の習慣もある。有害となりうるものであれば強迫性障害がそう。 習慣には当初の目的や意図から離れていく特徴があり、習慣のメカニズムを知る上で大きな鍵になっていることがわかってきた。 アンソニー・ディキンソンのラットを用いた研究では、目的指向型と刺激反応型の行動があり、後者が習慣。 刺激が現れると自動的に反応し、目標に関係なく実行される特徴を持つ。 ちょっと読んだだけでも自分の中で意識してなかったことが目白押しで実に良い。

2025-04-07, read count: 1, page: 1 ~ 10

世界には安定と変化の側面があり、安定した側面は自動化したいが、脳はその両者を区別できない。 「安定性と可塑性のジレンマ」という用語で表現され、その解決策として習慣が果たす役割を説明する。 本書の構成について。 Ⅰ部は習慣とは何か、科学的に何を意味し、脳のどの部分で発生するかを説明する。 Ⅱ部は行動変容について。如何に習慣を変えることがが難しいか、科学的な裏付けのもとに深く理解していく。 簡単なコツでなく科学的な裏付けがある理解とアイデア、というあたりそうそうこれこれという感じで嬉しい。

2025-04-08, read count: 1, page: 11 ~ 17

第 2 章 脳が習慣を生み出すメカニズム。 習慣は意識的な記憶と切り離されている。これは脳には複数の記憶システムがあるため。 重度の記憶障害でも技能を習得できることから、習慣や技能の習得には別のシステムが関わっている。 マクリーンに始まる、人間の習慣が"爬虫類脳"によるという考えは、現在否定されているが、大脳基底核が技能習得に関わっているという初期の証拠になった。 大脳基底核は尾状核・被殻・側坐核・淡蒼球・視床下核・黒質・腹側被蓋野など、脳の中央の様々な場所に位置するが相互に深く結びついているため一つのものとして扱われる。 大脳基底核の信号を送る経路と仕組みはそういうもんなのかという暗記物。

2025-04-09, read count: 1, page: 18 ~ 33

大脳基底核の経路には直接路と間接路があり、直接路は行動や思考を開始し、間接路は行動や思考を抑制する。 関節路は視床下核を介することで抑制的な信号を送る。 この経路の違いにはドーパミンが関わっている。多くは黒質・腹側被蓋野で作られ、特に大脳基底核への投射が多い。 「神経調整性」の神経伝達物質であり、直接的にでなくニューロンへの他の興奮性・抑制性の入力の効果を調整する。ギターアンプのボリュームのようなもの。 ドーパミンは「可塑性」と呼ばれる経験による脳の変化にも関わっている。 ドーパミン受容体は興奮性を高める D1 型と興奮性を抑える D2 型があり、直接路は D1 型を、間接路は D2 型を発現する。 この違いの存在は長年議論の対象だったが「オプトジェネティクス」によって違いの存在を示す強力な証拠が得られるようになってきた。 未だ暗記物が続くが登場人物が増えてきて解像度は上がってきたような。

2025-04-10, read count: 1, page: 33 ~ 38

オプトジェネティクスは、光受容タンパク質を分子生物学の手法で極めて正確にニューロンへ挿入することで、光によってニューロンを興奮させたり抑制したりできるようになった。 これにより、なぜハンチントン病やパーキンソン病のような体の制御に支障をきたすメカニズムが解明されてきている。 ドーパミンが引き起こす様々な作用の中で習慣の形成に関わるのはシナプス可塑性で、経験によりシナプスの強度が変化することで他のニューロンを刺激する力が強くなったり弱くなったりするプロセス。 三因子ルールという可塑性調整でドーパミンが重要な役割をする。ドーパミンが存在するとシナプスが強まり、存在しないと弱まる。 ヴォルフラム・シュルツの研究により、ドーパミンニューロンが敏感なのは報酬ではなく、予測と予測の誤差であることがわかってきた。 これは機械学習における強化学習の考え方と一致し、ドーパミンの働きを数学的理論に基づいて理解できることを示した。 突然のコンピューターサイエンスでびっくりしたがそうつながるか。興味深いな。

2025-04-11, read count: 1, page: 38 ~ 46

カルシウムイメージングは、脳内のドーパミンニューロン等に活性化するたびに蛍光強度が変わるタンパク質の遺伝子を挿入することで、多くのニューロンの活動を一度に画像夏できるようにした。 2019 年のウィッテンのマウスを使った仮想現実の手法を用いた研究により、ドーパミンユーロンが予測と予測の誤差に敏感であることが裏付けされ、更には他に反応するものがあるとわかった。 世間一般に言われるドーパミンと快楽の関連は実際には直接はなく、むしろ動機づけが中心の枠割であるとみなされるようになっている。 ドーパミンを阻害されたラットは意欲が減衰することがわかっており、ベリッジとロビンソンはインセンティブサリエンシー(incentive saliency)と呼ぶ。 人間がある時点でどのように行うべきか判断するのに大脳基底核とドーパミンが関連すると考えられている。 話が逸れるが「実験動物は何度も実験を経験してるからレバーは押すものだと知っている」というのは考えたことなかった。バイアスやなあ。

2025-04-12, read count: 1, page: 46 ~ 53

第 3 章 一度習慣化すれば、いつまでも続く マーク・ブートンの研究により過去に学習された習慣は一度失われたと見えてもまた戻る事がわかっている。「自然回復」「復元」「復活」といわれる。 実際には古い習慣を忘れるのではなく、新しい習慣が現れやすいように古い習慣を抑制していると考えられる。 この事実から、恐怖症・ PTSD ・ 強迫性障害などの治療において重要な効果があることを示した。この種の治療法に「曝露療法」がある。 クラスケの研究では、習慣が学習されたコンテクストに特化したものになることを示しており、様々なコンテクストで曝露療法を行うことで、より効果的な治療ができることを示している。 インとノールトンは目標指向型(行動-結果型)は習慣学習がどのように進行するか理解する枠組みを構築した。 始めに背外側前頭前野と尾状核を結ぶ「認知」皮質線条体ループから始まり、時間の経過とともに運動皮質と被殻を含む「運動」回路が習慣を学習し始め、最初の認知経路に取って代わる。 この移行にはドーパミンが関わっている。このようにして運動システムに習慣が定着すると無自覚で行動を起こすようになる。 ここはキーワード覚えきれず難しかったのでまた読む必要がある...

2025-04-13, read count: 1, page: 54 ~ 61

習慣は一つでなく一連の行動で構成されていることが多い。 これは習慣的な行動を起こすときにどのようなアクションスリップ(日常的な目標行動で生じるうっかりミス)を起こすかを見ても顕著である。 グレイビエルの研究では、一度習慣が形成されると、線条体と前頭前野が協力して一連の行動の流れをまとまった行動単位に変えるため、一度始まると途中で止めるのが難しいことを示している。 パブロフ型学習は特定の刺激が価値のある結果に結びついたときに起こる。 道具的学習とは特定の状況や刺激に対して特定の行動を取るよう学習することをいう。 パブロフ型学習から道具的学習への転移とは、パブロフ型学習によって結果と結びついた刺激が道具的学習で獲得した行動を引き起こすことをさす。 これは、禁煙中の人が喫煙する人を見たり煙の匂いで喫煙衝動に駆られるように、特に悪い習慣を呼び起こすことにおいて大きな役割を果たすと考えられている。 このメカニズムにおいて、 DREADD という手法でドーパミンのシグナル伝達を側坐核で阻害すると転移が減少することから、側坐核のドーパミンが中心的な役割を果たしていると考えられている。 難しいけどここは非常に面白い。

2025-04-14, read count: 1, page: 61 ~ 67

ケモジェネティクスの手法の一つとして DREADD(デザイナードラッグによってのみ活性化すされるデザイナー受容体/Designer Reseptors Exclusively Activated by Designer Drugs) がある。 オプトジェネティクスと違い効果が出るまでに数十分かかるがその後数時間持続することもあり、長い時間枠での研究に有効であり、薬剤の注射のみで実施できる。 依存症の場合、依存対象の視覚的な手がかりに強い注意バイアスを持つのがストループ課題で実証されている。 つまり、ある種の習慣の手がかりはパブロフ型学習から道具的学習への遷移だけでなく、その個人にとってのサリエンシーが増大することによって、習慣を誘発しやくなる。 アンダーソンはこの依存症の注意バイアスは「価値駆動的な注意捕捉」という基本的な心理メカニズムと多くの類似点があることを主張している。 サリエンシーがわからなかったので調べた。感覚刺激がボトムアップ性注意を誘引する特性を指すらしい。ボトムアップ注意は視覚刺激そのもので引き起こされる受動的な注意過程らしく、要は周囲より顕著に目立つものに注意を惹かれることみたい。言葉むずー。

2025-04-15, read count: 1, page: 67 ~ 72

第 4 章 「私」を巡る戦い。 行動を決定する脳内の複数のシステムについて。 神経系の原始的な部分に依存する反射。その正反対がこれまでに出た目標思考行動。 習慣はその 2 つの間に位置し、目標思考行動であった行動が何度も繰り返されて自動化したもの。 止めるのが不可能な反射と違い、十分な努力と意識で止めることが可能。 パッカードは「プラス迷路」と呼ばれる実験装置で、目標指向行動と習慣的行動が競合していることを示した。具体的にはラットの海馬の機能を停止させると反応行動(習慣的行動)、大脳基底核の機能を停止させると場所学習(目標指向行動)をするようになった。 努力と意思で習慣を止められると出たのはここが初めてか。まだ具体的に触れられてないが。

2025-04-16, read count: 1, page: 73 ~ 78

著者ポルドラックの fMRI による脳画像を使った研究により、試行錯誤型の学習では大脳基底核(習慣的記憶システム)が、対連合型の学習では側頭葉内側(宣言的記憶システム)の活動が大きいことがわかった。 また片方の活動が上がるともう片方が下がるという、互いのシステムが競合しているというパッカードの見解を裏付ける結果が得られた。 その後ドーパミンのシグナル伝達に障害があるパーキンソン病患者も、試行錯誤型でなく対連合型の学習でならはるかに簡単に学習できることがわかった。 計測できることで次々と裏付けが得られたというのはすごいな。

2025-04-17, read count: 1, page: 78 ~ 80

1950 年代に始まる AI の研究について。始めは医療やチェスのような難しい推論をさせようとしたがうまくいかなかった。後に人間に近い方法で学習する機械学習であり、その中でも深層学習が大きな成果を上げている。 教師あり学習・教師なし学習・それらの中間の強化学習の 3 つの学習方法がある。 強化学習以前から心理学者は学習の仕組みを研究していた。 「効果の法則」「パブロフ型学習」「ブロッキング」や報酬の予測の誤差と全く同じ考え方からなる「エラー駆動学習」等。 強化学習の数理モデルの主要な構成要素に「ポリシー」「探索」「報酬信号」がある。 ポリシーで一般的なのはソフトマックス。 ドーパミンニューロンの活動と強化学習モデルの振る舞いの強い数学的関係を見出したように、計算機科学のモデルで脳の仕組みを解明しようとする計算神経科学という分野がある。 急に AI 出て馴染みある言葉が並んでびっくりした。計算神経科学という名はこの本で初めて知った。

2025-04-18, read count: 1, page: 80 ~ 88

前述のはモデルフリー強化学習で、組み合わせの爆発のような次元の呪いや外界の変化に弱い。ただ習慣の仕組みはよく表している。 これに対し構造の知識を利用するのがモデルベース強化学習で、人間の行動の多くはこれに該当する。 ナサニエル・ドーはこの 2 種類の学習が人間の脳でどのように機能しているかを研究、「二段階課題」という手法を開発した。 多くの研究では人はモデルベース強化学習とモデルフリー強化学習の使い分けに個体差があることがわかっている。 またそれは安定しておらず、気が散る状態ではモデルフリー制御、集中した状態ではモデルべース制御が行われると行った、特定の状況要因が影響していると示す証拠もある。 これ面白いな。強化学習との関連もさることながら、集中度合いで行き当たりばったりな学習はしがちというのは、実感を伴う気がする。

2025-04-19, read count: 1, page: 88 ~ 94

薬物依存症のように、目標も習慣的になり得るという考えに関心が集まっている。 クッシュマンはドーの二段階課題を応用して、モデルベースの学習は習慣を選択する可能性があり、モデルフリーの学習は目標状態に設定する価値に影響を与え可能性があることを示唆した。 これは中々恐ろしいな。目標設定した価値がランダムな要素で歪んでいる可能性があるということか。もしこの目標が習慣化してしまったら上書きでしか書き換えられないし難儀や。

2025-04-20, read count: 1, page: 95 ~ 97

第 5 章 自制心―人間の最大の力? 人の心の中の欲求と自制については、古くはプラトンが「パイドロス」で触れ、この二面性を最も有名にしたのはフロイトの著作である。 心理学では自制心は人生の重要な成果の多くに強い影響を与えると考えており、それは計画性や動機づけ、集中力、快楽追求、抑制などの心理的機能に関連しているとみなせる。そしてこれらは人間が独自に進化させた脳の領域である前頭前野に関係している。 事故・ロボトミー手術等の脳障害などで前頭前野が損傷した人は、社会的・感情的な機能障害や、判断力の低下、優柔不断、社会的な不適切な行為などの「実行機能不全」をといった、自制心を欠くようになった事例が見られる。 またこれらとは逆に脳損傷後に性格が改善するプラスの影響が見られることもあり、その場合は前頭葉の一番前方に損傷がある人が多いことがわかっている。 ロボトミー知ってたがここに関連してくるのか、恐ろしい。

2025-04-21, read count: 1, page: 98 ~ 105

前頭前野が自制心に重要な役割を果たすのはなぜか。 脳の一次領域は五感など特定の感覚モダリティからの入力の処理や、運動を制御のための出力の直接的な生成に特化していて、さながら脳と外界のゲートウェイと言える。 連合領域は一次領域からの情報を統合する。単一の感覚モダリティを扱うユニモーダルと複合した感覚モダリティを扱うヘテロモーダルがある。 前頭前野はその中でも最上位のヘテロモーダルの連合領域であり、脳が利用できるあらゆる情報の概要にアクセスできる。 前頭前野は人と他の霊長類で大きさにさほど違いはないが、人の場合は抽象的な思考に関わる領域が相対的に大きい、また脳の配線である白線の大きさに違いがあると考えられている。 しかしそれほど顕著な差でないので、ニューロンにおける組織化の微細な違いではないかとも考えられている。 このように具体的な大きな違いをもたらす仕組みは完全に解明されていない。 脳がパーツで構成されてるような感じで解像度が高まるな~。

2025-04-22, read count: 1, page: 105 ~ 109

白質の画像化する手法は、マイク・モーズリーは拡散強調 MRI という技術を用いたのに始まる。 水分子がどの方向にも拡散する運動は等方性と呼ばれ、軸索の中の水分子のように特定の方向に拡散する運動は異方性と呼ばれる。 代表的な手法は拡散テンソル画像法と呼ばれ、拡散が等方的か異方的か定量的に決められる異方性比率という指標を算出でき、白質の構造が脳にどう関連しているか理解するのに役立つ。 ゴールドマン=ラキッチの「眼球運動を用いた遅延反応課題」により、ドーパミンがワーキングメモリにとって極めて重要であること、ワーキングメモリに情報を保持しているとき活性化するニューロンがあることを明らかにした。 しかしアール・ミラーの研究では、より複雑な課題になるとニューロンが持続的に発火しない事がわかっている。 どのように情報が保持されるかについては紆余曲折あるが、ワーキングメモリに前頭前野のニューロンが不可欠であることは明らか。 はじめ字面だけだと猿の実験がワーキングメモリに関するものだと読んでる途中なわからなかったわ。でもセクション最後まで読めばわかった(多分)。

2025-04-23, read count: 1, page: 109 ~ 113

ノルアドレナリンを分泌する青斑核は特に前頭前野に接続しており、ドーパミン同様ワーキングメモリに重要な役割を果たすと考えられている。 アドレナリンもノルアドレナリンもカテコールアミンの一種だ。 カテコールアミンは眠いときのレベルが低い状態、極度のストレス下の高い状態のいずれでもなく、前頭前野にとってちょうどいいレベルである必要があり、逆 U 字型の関係があるとアーンステンは主張する。 この関係はヤーキーズ・トットソンの法則の根底にあると考えられている。 これは覚醒状態が前頭前野の機能に影響を与えることを部分的に説明している。高すぎるレベルのノルアドレナリンはα2A 受容体だけでなくα1受容体にも作用し、前頭前野のニューロンの発火を抑制しワーキングメモリのパフォーマンスを低下させる。 また、適切なレベルに調整する必要があるのはドーパミンも同じであることがわかっている。 ノルアドレナリンも関係するのかー。となるとその後のコルチゾールも関係するのかな。サプリで培った知識が活かせる。ま、先を読めばわかるか。

2025-04-24, read count: 1, page: 113 ~ 118

ウォルター・ミシェルのマシュマロ実験として知られる子どもを対象にした一連の研究で、誘惑が目の前にあるほど抗い難く、また満足遅延能力が高いほどその後の人生の成果にポジティブな結果をもたらす事がわかった。ただしサンプルサイズが小さ過ぎることは研究者自身認めていた。 満足遅延能力とその後の人生の成果の関係は明らかだが、米国国立小児保健・人間発達研究所が実施した「初期発達における保育の質と子どもの発達に関する研究(Study of Early Child Care and Youth Development SECCYD)」と呼ばれる研究に基づいた大規模なデータセットを用いた 2 件の重要な研究において、その関係を生み出す要因が社会的な要因等他にも存在し、分解して考えることが極めて困難であることを示した。 変数が多くて単純化できないんやな。

2025-04-25, read count: 1, page: 118 ~ 124

異時点間選択テストは、今すぐ得られる報酬と後で得られるより多い報酬の組合せを提示する。このとき人は経済学的な判断よりも目先の報酬を重視する傾向がある。 人の忍耐強さは将来の報酬をどれだけ早く割り引くかを示す k 値で定量化される。 k 値の個人差は大きく、 2 万人以上を対象にした研究では 1000 倍以上もの差があった。我慢強い人ほど遅延割引率が低い。 遅延割引率はマシュマロ課題同様に貧困による欠乏状態など環境要因の影響を受ける。 また一卵性双生児と二卵性双生児では前者の方が遅延割引率が似ていることから遺伝的要因が示唆され、ドーパミン機能に関する遺伝子の関与が推定されるが、小規模な研究で再現性がないものが多く、また唯一大規模なゲノムワイド関連解析では個人によって違いがあることをほとんど説明できなかった。 遅延割引率もマシュマロ課題同様に人生の結果と関係がある。薬物依存症者は大幅に早く割引することが知られている。ただし関連はあれど依存症の行動マーカーとするには十分な証拠がなく危険なラベリングとなる。 ゲノムワイド関連解析のとこに最近破産した 23andMe 社載っててびっくりした。この本は漏洩する前に出てるからな。

2025-04-26, read count: 1, page: 124 ~ 130

神経科学と経済学の分野では、衝動的な脳のシステムと理性的な脳のシステムが競合しているとい考え方が二重システム理論として知られる。 1 つ目は目標を無視して即時的に報酬を得ようとするシステムで側坐核・副内側前頭前野・ドーパミン系など報酬が関わる脳領域と関連する。 2 つ目は合理的で目標思考で忍耐強いシステムで外側前頭前野と関連し、ワーキングメモリに情報を保存し、気が散らないようにする・将来の行動を計画する・望ましくない行動を抑制する等の自制心の基本になると考えられている。 2 つの脳システムの競合はベータ‐デルタモデルと呼ばれる二重システムモデルの研究で示されたが、のちの研究で強く批判される。 しかし外側前頭前野の機能が異時点間選択課題において性急になる傾向をコントロールする役割を果たすことは裏付けられている。

2025-04-27, read count: 1, page: 130 ~ 134

人の衝動性を分類に関し、最も支持されるフレームワークでは、切迫性・忍耐力の欠如・計画性の欠如・刺激欲求性の 4 つに分ける。 回答者の答えからこれらの側面を因子分析と呼ばれる統計的手法で推論される。 衝動性も遅延割引率同様に遺伝的な要因があると考えられており、サンドラ・サンチェス=ロイゲらと 23andMe の共同研究において遺伝的な相関がみられた。 しかし衝動性の脳のメカニズムはあまりわかっておらず、多くは 100 人未満の小規模な研究で、数千人単位のサンプルが得られないと信頼性の高い結果は得られない。 脳機能と衝動性について十分な検出力のある初めての研究はケント・キールらによる安静時 fMRI を用いた手法で、典型的な若年成人や衝動性の弱い犯罪は運動前野の実行制御に関わる他のネットワークが機能的に結合しており、衝動性の強い犯罪者では阻害されてることがわかった。 ダニエル・マルグリーズらの研究では忍耐力の欠如が前帯状皮質と外側前頭前野の結合性が弱いことがわかっており、脳の違いと衝動性の関連を完全に理解するにはさらなる研究が必要とされる。 いずれも機能的な結合によって自制心が機能するから子どもや一部の犯罪者のように脳の機能の連携が弱いと衝動的であるということでいいのかな。

2025-04-28, read count: 1, page: 134 ~ 141

反応抑制がうまく機能しないと、過食症や薬物依存症などの様々な障害と引き起こすと考えられている。 反応抑制はストップシグナル課題と呼ばれる実験で研究されてきた。人間が行動を中断するのに要する時間は 0.2 秒とわかっている。 ゴードン・ローガンはストップシグナル反応時間と呼ばれる数学的枠組みを開発し、抑制の成否がゴープロセスとストッププロセスの競争にかかっているというモデルを構築した。 また大脳基底核に前頭前野が視床下核を直接的に活性化できるハイパー直接路と呼ばれるルートが有り、これが行動の停止の関与していることがわかっている。 複雑やなあ。見取り図でもないと繋がりがわからなくなってきた。

2025-04-29, read count: 1, page: 141 ~ 147

従来、目下の衝動を断つのが上手な人は意志力の強い人と考えられていた。 ところがストップシグナル反応時間(行動を停止するまでの時間を数値化したもの)と自記式調査法で測定される被験者の自制心の測定値の相関を計算したところ、ほぼ無関係であることがわかった。 ウィルヘルム・ホフマンらが「経験サンプリング法」で調べたところ、自制心の高い人は低い人に比べて葛藤が少なく欲求に抗う回数も少なかった。 ガラとダックワースによる研究では、自制心の高い人ほど日々の習慣を自動的に行っており、良い習慣を身につけるのが得意であると示している。 自制心の問題じゃないのか。葛藤や欲求への抵抗が少ないというのは何となく体感として理解できる。 衝動が起こりにくいというのはあるのかな。このあたりは次の章でわかるかな。

2025-04-30, read count: 1, page: 147 ~ 150

第 6 章 依存症―習慣が悪さするとき 神経科学者は依存症を「有害な結果をもたらすにも関わらず、強迫観念にかられて制御できずに特定の行動を取ってしまうこと」と定義する。 多くは何らかの化学物質が関与するが、最近はギャンブルやスマートフォン等の行動依存症という概念も注目されている。 乱用薬物は全て側坐核のドーパミンレベルを上昇させると考えられている。 一部はドーパミントランスポーターと呼ばれるタンパク質に影響を与え直接的にドーパミンレベルを上げる。コカインは活動を阻害し、アンフェタミンは働きを逆行させシナプスに送り返す。 ニコチンやアルコールは直接的にドーパミンニューロンを発火させ、オピオイドや大麻はドーパミンニューロンを抑制している他の細胞の活動を抑えて間接的に発火させる。 乱用薬物は一般的に自然の報酬よりも遥かに大きいドーパミン放出を引き起こすと言われているが、裏付けは難しい。 自然に発生するドーパミンは速やかに分解されるが、乱用薬物の多くは効果を持続させる。 高速スキャンサイクリックボルタンメトリーという手法では即時的な放出量は自然な報酬と大差なく、薬物が習慣化しやすいのは不自然に持続するという事実に関連していると考えられる。 オプトジェネティクスツールの開発により、カール・ダイセロスの研究によるドーパミンと「条件付場け所指向性」の関連の実証、イラナ・ウィッテンの研究成果から、ドーパミン刺激が脅迫的な行動を起こす力を持つことが示された。 これまでも散々ドーパミンって言葉見続けてきたがこの章はドーパミンの独壇場間違いなしやな。

2025-05-01, read count: 1, page: 151 ~ 155

乱用薬物が即時的・持続的に側坐核などの遺伝子発現にエピジェネティック(遺伝子発現を制御するよう)な変化をもたらす。 脳の可塑性に特に重要な転写因子は CREB (Cyclic AMP Response Element Binding protein)(サイクリック AMP 応答配列結合タンパク質)。 コカインへの曝露により成人の脳には殆ど見られないサイレントシナプスが生成され、永続的な薬物習慣の形成につながる可塑性メカニズムの一つとなる可能性がある。 また「耐性」として知られる薬物の影響を無効化して定常状態を維持しようとする脳の適応があり、時間の経過とともに薬物の摂取量を増加させる。 ボルコウによる初期の研究では陽電子放出断層撮影(Positron Emission Tomography)検査でドーパミン量を推定し、中毒者は対照群と比べて同程度のドーパミン反応を得るにはより多くの薬物刺激が必要になることを示した。 ベリッジとロビンソンは薬物乱用でインセンティブサリエンシー(incentive saliency)に過敏に反応するようになり薬物への強迫的な欲求から脅迫的に使用するようになることを挙げている。 脳が変質するってよく聞くしこの本でも目玉焼きの CM の話があったが、より複雑とはいえなるほどな。

2025-05-02, read count: 1, page: 155 ~ 160

トレヴァー・ロビンスとバリー・エバリットが依存症の発症には衝動性から強迫性への移行が伴うと提唱し注目を集めている。目標指向行動から習慣的行動への移行が観察できるという。 衝動性とドーパミンの関係は、ヒトを対象にした実験で衝動性が強い場合は線条体のドーパミンレベルが低いとわかっている。 ラットの場合、コカインを求めることが習慣化するには、側坐核がトリガーとなって背側線条体にドーパミンを放出できることが必要であると示されている。 また、下辺緑皮質が習慣の形成と維持に、前辺緑皮質が脅迫的な薬物使用の発生に中心的な役割を示している。 近年では目標指向行動と習慣的行動のバランスの乱れを依存症と捉えようとする動きが高まっている この分野の研究は強化学習のモデルベース・モデルフリーの考え方に強い影響を受けており、依存症患者はモデルベース学習に頼る傾向が低く、モデルフリー学習に頼る傾向が高いことからも、二つのシステムのバランスの崩れを示唆している。 これまでの章の内容を修めてないと難しかった。要はバランスみたい話になってきたがなんでバランスが崩れてるのかやな。

2025-05-03, read count: 1, page: 161 ~ 166

人間の脳にもニューロンが過剰に刺激されないようにするための複雑なプロセスがあり、それが依存症が引き起こす禁断症状の鍵を握っている。 報酬系の外部では、ストレスに反応する視床下部・下垂体・副腎(HPA)軸が影響を受ける。 視床下部からコルチコトロピン放出因子(CRF)が放出されるが、報酬と感情に関わる多くの脳の領域に CRF 受容体があり、薬物に暴露することでストレス反応が増強されると考えられている。 また気分不快(ディスフォリア)と呼ばれるネガティブな感情状態は脳のオピオイド系の変化に関連している。 ストレスは報酬系と密接に結びついている。またストレスは前頭前野が行動を制御する能力を低下させ、習慣と目標指向行動の間のトレードオフの調整もしている。 依存症が習慣的行動だという従来の見解と違い、目標指向行動であると考える研究者が増えている。 目標指向行動への過度の依存が中毒性のある行動を引き起こす仕組みもいくつ考えられ、薬物が様々な脳のシステムに強力な影響を与えているので、習慣一つで説明するのは難しい。 ストレスが目標指向行動と習慣的行動のバランスを崩しているということもできそうだが、習慣の関与同様に複雑なシステムなのでそれだけではなさそうか。難しいなあ。

2025-05-04, read count: 1, page: 166 ~ 171

近年は食物に依存するヒトが増えている。肥満は環境や心理的要因だけでは説明できない複雑な現象である。 現代の食生活は進化の過程とは大きく異なり、人工調味料や化学物質を含む高糖度な超加工食品となっている。 米国国立衛生研究所(NIH)のケビン・ホールらの研究で、超加工食は非加工食よりも食事量と体重を増やす効果があるのがわかっている。 ポール・ジョンソンとポール・ケニーのラットの研究では食物にも依存性に似た行動を発現する事がわかっている。嗜好性が高くエネルギー密度の高い食事を与えると、食事量が増え肥満になるだけでなく、ドーパミン受容体の量が少なく報酬への反応性が低下した。砂糖中毒に関する研究もある。 食欲を刺激するグレリンはドーパミンの放出を促し、抑制するアディポカインレプチンはドーパミンニューロンの活動を低下させる。 しかし脳が薬物と食物の報酬に反応する方法には明確な違いがあり、一概にいえない。 また人間における食物の依存症については「制御できない摂食行動」としてより一般的な概念で理解できるという指摘がある。 制御できない摂食行動には前頭前野の活動、自制心の低さが関わっている。しかしそこから「逆推論」したとて他の多くの機能も前頭前野に関連しているため、それだけでは説明できず、制御できない摂食行動の脳内メカニズムを解明するにはさらなる研究を必要とする。 食生活の環境的な変化が影響していると言えそうだが詳しいことはわからんという感じか。難しいね。

2025-05-05, read count: 1, page: 171 ~ 178

ティーンエイジャーや若者に見られるスマートフォンの過度な使用を依存症とすべきだという議論が広がっている。 スマートフォンの使用とドーパミンの関係は、外界の新奇さが一種の一般化された予測誤差として働くためだ。 しかしスマートフォンの利用と脳の構造や機能の関連性の根拠となる十分な情報の研究はまだない。 ギャンブル依存症という概念から生まれた行動嗜癖という概念がある。 行動嗜癖の悪影響が真の依存症のレベルに達すとみなすことに対し、依存症の分野の研究者はアレン・フランセスが「診断のインフレ」と呼ぶものを反映しているのではないかと懐疑的である。 例えばデジタルテクノロジーを使用する世代のメンタルヘルスの問題は、当然ながらその時代の変化等他にも原因がたくさんあると考えられる。 エイミー・オルベンとアンドリュー・プシビルスキによる大規模な研究では、デジタルテクノロジーの使用と心理的幸福との関係にわずかにネガティブな相関が見られたが、いじめ・薬物・眼鏡をかけて学校に行く等が及ぼす心理的幸福へのネガティブな影響よりはるかに低く、デジタルテクノロジーの悪影響を過大評価している可能性を示唆した。 しかし観察研究では因果関係の完全な特定が難しいことは留意すべきである。 新しい問題が現れたときに、確かに悪影響があるがその影響を過大評価しすぎてることはよくある。研究でも似たようなことがあるということかな。あと眼鏡の印象が悪いのはなんでだよw

2025-05-06, read count: 1, page: 178 ~ 182

試した人の 2/3 が依存症になるタバコを除き、他の薬物は平均すると最終的に依存症になる確率は 1 ~ 2 割と推定されている。 依存症になる一般的に挙げられる理由の自制心や意志力の弱さではその差を説明できない。 ただし自制心の一部、反応抑制の低さが薬物の実験的な使用から脅迫的な使用への移行に関連している可能性が示されている。 遺伝的要因は限定的で、パスコリらの研究では遺伝的にほぼ同一なマウスにも個体差があり、眼窩前頭皮質から線条体の中型有棘ニューロンへのシナプスの強さが忍耐力と関連していることが示された。 この個体差ランダムな要因によって起こるという考えがある。また環境要因としてストレスも関わりがある。 現在でも依存症を引き起こす生物学的なシステムはかなり解明されてるけどだからといって予測ができるわけではないと。諸々の要素それぞれに注意するしかないか。

2025-05-07, read count: 1, page: 182 ~ 188

第Ⅱ部 習慣を変えるには―行動変容の科学 第 7 章 新しい行動変容の科学に向けて 現代社会はドーパミン反応を引き起こす刺激に溢れ、前頭前野の中長期的な目標に沿って行動する能力はストレスや集中力の妨げられ、簡単には行動変容できない。 現代の先進国の成人の死因の殆どは現代病で、例えば喫煙者は心臓発作、がん、肺疾患のリスクが高く、行動変容の重要さがわかる。 しかし禁煙等の行動変容に関する研究は過去半世紀多く行われたが、 1 年間新しい習慣を持続できる人は常に 1/3 である。 生物学的な知識の高まりによる医療の発展に比べ、行動変容の成功率は著しくない。多くの心理学者は共通の理論でなくそれぞれ独自の理論を構築しようとする傾向がある。 最も広く受け入れられているトランスセオレティカルモデルは、行動変容の有効性を左右する脳や心理のメカニズムに触れておらず、提案されて 40 年近く効果的な治療法の開発に役立たなかった。 オレオレメソッドの提唱をするあたりは広義のプログラミングでも同じやな。

2025-05-08, read count: 1, page: 189 ~ 195

米国国立衛生研究所(NIH)で 2008 年頃に行動変容の基本的メカニズムの理解に取り組むための新しいプログラムの開発に実験医学的アプローチを提案、 2010 年から「高黄変用の科学(Science of Behavioral Change)」というプログラムが始まった。 実験医学的な考えを適用するために介入の標的を分類すると、環境・習慣・目標指向行動に分けられる。 以降の章では現在利用できるもの・将来可能になるものの説明。他の潜在的なメカニズムの社会的支援・コーピング技能・マインドセットには触れないとのことなので自習の対象としよう。

2025-05-09, read count: 1, page: 195 ~ 198

第 8 章 成功に向けた計画―行動変容がうまくいくための鍵 行動を変えるのは簡単ではないが、神経科学・心理学・経済学等幅広い分野の研究から、すぐに利用できる方法・うまくいかない方法を知ることができる。 8 章では心理学から得られたアイデア示す。 行動経済学では環境によって選択を促されやすい・されにくくなる事実を選択構造という。ナッジとは選択構造を変えることで特定の行動を促すことで、行動変容に利用できる。 ただし習慣の定着を目的としたアンジェラ・ダックワースとケイティミルクマンの研究では、ナッジは行動変容に短期的な効果があることは示されたが、長期的に継続する効果はないことが示された。 人は合理的にみて利益の期待値が高くても損失の約 2 倍の利益が期待できないと行動しない損失回避という傾向がある。この傾向により、同じ結果でも表現によって異なった選択をしてしまうフレーミングという現象がある。 フレーミングは選択構造にとっても重要であると考えられるが、フレーミングが行動変容にどう貢献できるかについての研究はまだない。しかし選択肢を最適な方法でフレーミングすることで行動変容を改善できる可能性がある。 行動変容につながる選択を取りやすい環境を作るって感じよな。

2025-05-10, read count: 1, page: 199 ~ 204

意思決定の失敗を防ぐために、自分の意志で選択できる感覚をなくす特定の行動を禁止するルールを設ける。 ゲルト・ギゲレンツァの研究による人が選択時に単純な意思決定戦略を用いるという事実から、ルールはできるだけシンプルな方が効果的だといえる。 習慣の強固な持続性に「価値駆動的な注意捕捉」のように容易に行動が引き起こされるためであり、その手掛かりの出現を環境を変えて防ぐアプローチが考えられる。 環境を変える中で過激だが効果的だと思われるのが住む場所を変えることであると考えられる。 チックは運動習慣を引き起こすのと同じ脳の機構が関与していると考えられており、チックの包括的行動介入(comprehensive behavioral intervention for tics CBIT)という治療法があり、標準的な治療法の 5 倍以上の効果があることが実証されている。 CBIT の成功からは、行動変容に幅広いアプローチを複数組み合わせる必要であり、大きな努力が必要であることから、行動変容の難しさを再確認させられる。 しかし難しい行動でもうまく変えられるという希望を与えてくれる。 引き続き環境の制限、あと CBIT は習慣のメタ認知って感じか。

2025-05-11, read count: 1, page: 204 ~ 210

マインドフルネス・瞑想は行動変容の欲求の抑制と実行制御の改善に効果をもたらすと考えられるが、その研究は質の低い研究や出版バイアスにより科学的な裏付けは乏しい。 自制心を向上する訓練も、メタアナリシスによって出版バイアスがあることがわかっており、バイアスを補正すると効果は基本的にゼロになるようだ。 認知的訓練の問題点として、訓練効果を他の状況に転移させるには同一要素の原則に従う必要があり、またその同一要素が極めて抽象的なため不可能であることが示唆されている。 いわゆる脳トレをテーマにした研究でも、訓練の効果が転移することはなく、また研究自体も質の低さが指摘されており、研究者自身もトレーニングプログラム開発に金銭的利害関係があるケースが多いという問題がある。 コンセンサス露文のタイトルに「ブームに注意せよ」とある通りやな...

2025-05-12, read count: 1, page: 210 ~ 217

行動変容と抑制制御との関係は大規模試験でも肯定的な結果を示しておらず、訓練が実験室外で行動変容につながるかは診療試験で厳密に検証する必要があるだろう。 行動変容の根本的な問題として意図‐行動のギャップがある。実現のための「実行委と」として知られる if-then プランニングには行動変容の効果を向上させる多くの証拠がある。 大規模なメタアナリシスすでも計画が具体的になるほど効果が高まる可能性も示唆している。 計画を実行できない場合の誓約はコミットメントデバイスと呼ばれ行動変容を促す有効な手段であると考えられている。 また行動変容の成功を細かく自己監視することが役立つという研究結果もある。 ここまでの行動変容の手法は何十年にわたる研究の成果であり、次は神経科学に基づくアイデアに続く。 GitHub の Streak や booklog はまさに自己監視よなー、自分にはハマってると思ったが有効性が研究で示されてたのは裏付けがあって良い。

2025-05-13, read count: 1, page: 217 ~ 222

第 9 章 習慣をハックする―行動変容のための新たなツール 従来の行動変容の改善アプローチと違った、習慣のメカニズムを標的とした生物学的ターゲティングを可能にする神経科学のアプローチ。一部はまだ SFの領域。 長期的な記憶は記憶固定化と呼ばれる生物学的プロセスによって形成される。これはプロテインキナーゼが活性化されることから始まり、グルタミン酸受容体の効率性を変化させたりシナプスの感度を向上させ、また長期的にニューロン構造の変化にも関与する。 トッドサクタ―により発見された PKM-zeta(プロテインキナーゼ M ゼータ)は記憶の長期的な維持に関与しているようで、実験ではこの活動を阻害する ZIP という薬を投与されたラットは、嫌悪感を生じた記憶を失ったように見えた。 PKM-zeta を操作して悪い習慣の原因となる記憶を消去できる可能性は示されているが、標的とした脳の領域のすべての記憶が消されてしまう可能性が想定されるため、ピンポイントで特定の記憶を破壊できる可能性がある「再固定化」と呼ばれるアプローチに期待が高まっている。 フラッシュバックするような記憶は消せたらいいがついでに消える記憶が多いと流石に危ないし、他にも記憶の消去が人格形成を歪めたりしないのかとか色々気になる点はあるよな。

2025-05-14, read count: 1, page: 223 ~ 226

1968 年、記憶の長期的な定着を阻害する薬剤でも、学習の数時間後には記憶の定着を妨げられないことが知られていた。2000 年のカリム・ネーダーとジョー・ルドゥーの研究により、過去の経験を思い出した直後であれば定着を阻害できることがわかった。 これは過去の経験を思い出すと記憶が不安定化し、維持のためにさらなるタンパク質合成が必要になることを示唆している。これを再固定化という。 再固定化は恐怖学習だけでなく、報酬関連の習慣でも同様のことが起こるのがわかっている。 記憶の定着を阻害するのは薬剤だけでなく、経験によっても阻害される可能性が示されているが、成功は記憶の想起から 10 分 ~ 1 時間後に処理した場合に限られている。 しかし人に対しての研究は比較的小規模であり大規模な検証が必要とされる。 再固定化は有望なものの、効果があるとする・ないとする研究の両方があり、さらなる検証が必要とされる。 文中にあるようなショック療法でなくても経験で記憶を上書きできるとしたらすごいことや。記憶のフラッシュバックでもきくのだろうか。

2025-05-15, read count: 1, page: 227 ~ 231

アントワヌ・ベチャラの研究で島皮質を損傷した喫煙者の 2/3 が煙草をやめていたことを明らかにした。 島皮質の精神外科手術が依存症治療に有効かもしれない可能性があるが、心血管機能を始めとした様々な機能への悪影響の可能性から倫理的に認められる可能性は低い。 また ZIP のような記憶の固定化を阻害する薬剤の利用は、人で実証されたことがなく潜在的なリスクがあり、また一部の細胞に対しては有害である。 経頭蓋磁気刺激法(TMS)は一部のうつ病に有効であることが示されているが、比較的広範囲を対象にする限界や、一般的な治療法として採用するには検証が不十分な点がある。 人に対するオプトジェネティクスの検証は始まっているが、遺伝子組換えに伴う未知のリスク、外科手術によるリスクから、利用されるとしても極めて重篤なケースに限られるだろう。 またラットを用いた研究で得られた成果に対応する人の脳領域が正確にわからないことから、ヒトでの臨床試験は早くても数年先になる可能性が高い。 脳にデバイスを埋め込むとなるともうサイバーパンクなリスクを伴う印象たが、思ったより近づいてきてるねんな。

2025-05-16, read count: 1, page: 231 ~ 235

メチルフェニデート(リタリン)のような興奮剤が特に ADHD 患者の実行機能を改善することが研究で示されている。 興奮剤が ADHD 患者の実行制御を高め行動変容に影響を与える可能性があるが、健常者の認知機能への影響についてははっきりしない。 プレシジョンメディシン(精密医療)と呼ばれる個人レベルの正確な診断に基づく個別化した治療を行動変容に応用するにあたり、脳画像でバイオマーカーを特定するアプローチが関心を寄せられている。 また行動測定の組み合わせが行動変容の結果を予測するのに有用であることも示されている。 従来の臨床試験は誰もが同じように治療に反応すると仮定している問題があり、プレシジョンメディシンの分野では N-of1 臨床試験と呼ばれる個人に特化した試験が注目を集めているが、まだ少数の試験しか発表されておらず研究の質に対する批判もある 最初にゴルディロックスゾーンって副題があるのは、脳をちょうどいい塩梅に調整するために薬剤を利用するってことよな? 個々人のレベルに最適な状態にってのはアダプトゲンの働きと同じような感じか。アダプトゲンの方は有効性に?がついてるものも多いけど。

2025-05-17, read count: 1, page: 235 ~ 240

第 10 章 エピローグ 人間は一般的に自分たちを取り巻く世界が殆ど変わらないものだと想定して生きているのは、習慣システムの進化をもたらしたと考えられる基本的な事実である。 COVID のような急激な世界の変化は、本書で紹介された習慣に対する考えの正しさを裏付けることになった。 それまでの行動を変えるのは容易ではなく、環境が習慣を変えるうえでどれほど強力かなのか、また人間が新しい状況にいかに速く適応できるかも示した。 この本は COVID の最中に書かれながら、 COVID が落ち着いて元の生活に戻ったときに新しい習慣が残る可能性を示唆していた。わたしには実際残ってるし、新しい習慣に馴染めず元に戻ったヒトも多くいて出社回帰してる所も多い(これはビジネス的な判断を多分に含むが)。

2025-05-18, read count: 1, page: 241 ~ 243

現代の人類が、脳の脆弱性をついた依存が起こり得る環境を生きていくうえで、行動変容は避けられない課題だ。 しかし、急速な神経科学・心理学的メカニズム解明の隆盛、行動変容についての研究に再現性があり一般化可能な状況が整ってきているため、行動変容の科学の未来は明るいといえる。 個人の行動変容の科学を社会に適用することが、人類の炭素集約型の活動に伴う気候問題のような危機的な状況を回避し、持続可能な社会を実現する最善策を理解することに繋がるのを願う。 これで終わり。良い本。習慣とそのメカニズムへの解像度は上がったと思う。再現性の問題を改善されてきたのはオープンサイエンスが関わってると。オープンアクセスに関してあ計算機科学だと arXiv がまさにそれか。

2025-05-19, read count: 1, page: 241 ~ 248